A: こんにちは。チーフ・メディカル・オフィサーの松田和子です。
先週、ワシントンDCで開催されたAAN(米国神経医学学会)年次総会に行ってきました。今年は当社が関わる治験に関する演題発表が3例ありました。クローズド(関係者、招待者のみ)のサテライトミーティングにいくつか招かれ、1つでは簡単なスライドプレゼンテーションもあり、割と忙しいスケジュールでした。
今回のAANは日程が被ってしまい、ヨーロッパで開催されていたEASL (European Association for the Study of the Liver)には行けませんでした。4月21日に開催されるLiver Forum (NASHの治療薬開発についてアカデミズム、研究者、企業および各国の当局が密接に協議するフォーラム。今回が2回目)に招待されていたので是非参加したかったのですが。(Fast TrackがGrantされてからは更に、NASHへの会合や学会へのインビテーションが増えています。)
話をAANに戻します。学会では神経内科医らが一同に集まるため、効率良く関係者に会うことが出来ます。Eメールや電話会議だけでしか“会った”ことがなかった医師や治験関係者と、初めてFace-To-Faceで会う機会がありました。治験責任医師らとは最低でも2週間に一度は電話会議をし、スタディコーディネーターやスタディナースらとほぼ毎日のようにメールでは連絡を取っていますが、スタディチームの中には一度も会ったことが無い方も結構いました。コミュニケーションの観点からはやはり直接会って話すことは大事だと思います。
さて今回の学会演題発表に関して、質問が多かったものについて補足説明したいと思います。
ALS治験の中間解析について
今回の中間解析は「安全性データのみ」に関して解析しています。この中間解析の手法については当初から治験プロトコールに明確に記載しています(よって、FDAもレビューしています)。
本治験は6ヶ月の二重盲検の後に、6ヶ月のオープンレーベル(全員が治験薬=MN-166を服用する)というデザインで、最初の6ヶ月にプラセボグループに割り振られた方は(本人が望めば)自動的に次の6ヶ月にMN-166を服用します。しかし、最初の6ヶ月にMN-166グループに振り分けられた方々がそのままMN-166(とリルゾール)を更なる6ヶ月(合計1年間)服用することついては、途中で一度安全性データを確認してからとします、とプロトコールに明記したのです。
MN-166は日本で長い歴史があり安全性が高い薬ではありますが、日本での承認用量はアメリカでの治験で使われている用量よりずっと少ない1日30mgです。さらに本治験ではリルゾールというALSの薬に加えてMN-166を投与するのですが、MN-166がリルゾールと同時服用された場合の安全性については蓄積されたデータがなく、6ヶ月以上の長期投与による副作用、特に肝臓へのストレスやダメージが無いことをMN-166グループの患者さんがオープンレーベルに入る前に確認したかったわけです。というのは、リルゾールもMN-166も良く知られている副作用の1つが肝機能障害(肝臓への負担)だからです。
中間解析は、ある設定した日に、その時点で治験開始後3ヶ月が経った21名分のデータをロックし、独立した安全モニター医師がデータを解析比較しました。つまり、この医師だけが7名のプラセボグループ、14名のMN-166グループのデータを渡され、比較解析したのです。私やDR. Brooksなど治験に関わる医師は、ブラインドのままの全員のデータ21名分をまとめてレビューしました。(よって我々は、2つのグループ別のデータは知りません)。安全モニター医師は、両グループを比較検討した結果、MN-166グループに有害事象や臨床検査に安全面で心配するようなデータは無く、このまま予定どおり治験を進めて問題ないという評価をしました。ちなみに薬が最終の承認まで行き着かない最大の原因は安全性にあります。ですから、薬が安全であるということがALSの患者さんで証明されたことは大変意義があることと考えております。
効果に関して他の解析データがあるのに発表しなかったのか?という問い合わせがありましたが、今回の中間解析では安全性データの解析以外は行っておりませんし、DR. Brooksの発表したデータは2つのグループを比較したデータではありません。
進行型MS治験に関して
こちらの治験に関しても、何故解析データを発表しないのか、何か隠しているのか?という問い合わせがあったようですが、本治験では中間解析すらしていません。
治験開始当初から、DR. Foxは、2015年のAANミーティングの頃には患者登録がほぼ終わっていると思うので、間に合えば登録患者の背景についてのデータは発表はしたいと話していました。治験研究費を捻出してくださったNIHからもそういう要請があったようです。患者さんの基本背景は将来データ解析をするにはもっとも重要な因子です。そもそもどのような患者さんが治験に参加したか、治験に参加された患者さんの男女比や人種の比率、他の服用薬(本治験では、一部再発寛解型MS治療薬の併用を認めています)などの基本背景に偏りがあると信用出来る治験とはいえませんし、特定の施設に偏って患者登録されていないことを確認するのも大切なことです。
どんなに素晴らしい研究結果も、そもそも研究対象に大きな偏りがあると、信用出来るデータとして認めてもらえません。例えば、ある治験薬が素晴らしく効果があった…というデータ発表があったとしても、よくよくデータをみたら、治験に参加していたのは97%男性だった…となると「その薬は女性患者さんに効かないのでは?」となりますので。治験に参加していたのは日本人だけだった…ということだとその薬は日本人患者さんには効くけど、他の人種の患者さんには効くのかな??という疑問が出てきます。
治験をするにあたり、偏りが無いように出来るだけ均等に患者さんが振り分けられるようなシステムや、各グループ間で偏りが無いことをモニターすることはとても大事なことなのです。