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MN-029について

2010/10/29

皆さん、こんにちは。

あんなに猛暑だった夏から秋をひとっ飛びして、日本はすっかり寒い冬のような気候のようです。実家がある札幌では、10月なのに初雪が降ったと聞きました。早いですね!

NBCの番組が無事、最初の分がサンフランシスコ地域で放送されました。今後、複数回、ロサンゼルスやサンディエゴ地域でも放送される予定です。テレビ番組といえば、前回ブログで私の咳喘息の話を書いたところ、メールで「NHKの”ためしてガッテン”という番組で松田先生のような症状の病気の話を放送していましたよ」というメールを頂きました。調べたところ、10月20日放送分で”風邪が治っても長引く咳”という症状で現れる大人になってから発症する喘息についての内容だったようです。インターネットで検索すると番組の内容が分かるので興味のある方は調べて見てください。http://cgi4.nhk.or.jp/gatten/archive/program.cgi?p_id=P20101020

 さて、今日は29日なので(だから、なんだ?と言われそうですが、、)MN-029の話をしようと思います。

 私たちが導入して開発しているパイプラインのほとんどが日本の製薬会社さんから導入したものですが、このMN-029だけはイギリスのAngiogeneという会社から導入したものです。これはVascular Disrupting Agent (VDAと略される事が多いので、以下そうします) と呼ばれるタイプの抗がん剤候補です。これは直訳すると、“血管破壊剤”という意味で、まさに血管を壊すことで、癌細胞への血流を途絶えさせ、癌細胞をやっつけるのです。

 癌細胞の周りにある血管をターゲットにする抗がん剤はまとめてVascular Targeting Agent (以下VTA)、日本語では”血管標的薬”とよばれます。この中にはAngiogenesis-Inhibiting Agent (以下AIA)と呼ばれる新生血管阻害剤というグループとVDAと呼ばれる血管破壊剤のグループがあります。AIAは癌細胞に栄養や酸素を運ぶために、”これから新しく成長していく血管”の成長を阻止しようとする働きがあります。一方、VDA(血管破壊剤)は、すでに存在する”既存血管”を破壊するのです。癌細胞に栄養や酸素を運んだり、さらに癌細胞を他の部位に運んだり(これを転移といいます)している血管を壊し血流を途絶えさせると、癌細胞が兵糧攻めにあって死んで(壊死)しまうのです。

 癌細胞の周りにある血管は、通常の正常な血管に比べて非常に未熟で壊れやすい構造なのです。血管の内皮細胞は、「微小管」と呼ばれる細胞構造物のタンパク(このタンパクをチュブリンといいます)を障害されることで簡単に壊れてしまいます。血管の内皮細胞が壊れると血管は形状を保てなくなってしまい、血が滞って、やがて血栓が出来、そのの先へ血液を届けることが出来なくなるのです。

 MN-029はVDAのグループにはいるお薬候補です。メカニズムとしては、チュブリン阻害剤ということになります。VDAがAIAに比べて有利な点はいくつかあって、まず投与してから効き目が現れるのが早いこと。通常1時間以内に血流を滞らせる効果を発揮します。また投与期間もAIAのグループのお薬に比べると短い期間で済むようです。そのため、抗がん剤に特有の辛い副作用の観点からも有利だと考えられます。 (次回に続く)

松田 和子

薬物依存の治験について

2010/10/12

皆さん、ブログの更新に少し間が開いてしまって御免なさい。

ジャケットやセーターが必要なほど冷え込んだかと思えば、灼熱の真夏のような気候に戻ったり、、、と落ち着かない天候の変化のせいか、体調を崩していました。普段は至って健康、医者知らずの私ですが、過去2年ほど、軽いウイルス性上気道炎(いわゆる普通の風邪のことです)に罹ると、その後引き続いて「咳喘息」の症状が現れ吸入薬のお世話になるようになりました。寝不足が続き、少し疲れていた所に出張が続いて、飛行機の中で風邪のウイルスをもらってしまったようです。風邪そのものは軽く済んだのですが、その後、咳と喘鳴が止まらないので吸入薬をひっきりなしに使用しています。これ以上ひどくなって救急病院に行くほど悪化したなら、間違いなくMN-221の治験を行っているUCLAかUCSDの救急病院へ向かいます。でも自分がMN-221のお世話になるかもしれないとは5年前にMN-221に関わり始めた時には考えてもいませんでした。

今回は薬物依存の治験について少しお話しようと思います。現在進行形で行われている治験はニューヨークのコロンビア大学で行われているヘロイン中毒患者さんを対象にした治験です。また、前回のプレスリリースでも発表された通り、UCLAで覚せい剤中毒の患者さんをターゲットに治験が始まります。

さて、コロンビア大学の治験はヘロイン中毒の患者さんを対象にしているのですが、中毒を克服したい、この病気を直したいという意思がある人はこの治験に参加出来ません。何故なら、薬物中毒を直したい!という意思を表明した場合は即座にリハビリ施設など、適切な場所で適切な治療を受けさせることが人道的、倫理的だからです。我々の治験に参加してもらうためには、薬物中毒者であるが、現時点では治療する意思はない、けれど、将来的に治療することにつながる治験には興味があり理解があるという、“微妙な”ポジションの患者さんを対象にしているのです。

治験に参加する場合、患者さん個々人の中毒のレベルによってデータに差がでては困るので、最初の1週間は、一定量のモルヒネ(ヘロインと同じ仲間の麻薬の一種、鎮痛効果があるため医療現場で使われています)を投与されるのです。口の悪い人に言わせると、色々な制約がって大変な部分もあるかもしれないけど、最初の1週間はただで正々堂々とモルヒネ(麻薬の一種)を投与してもらえる、麻薬中毒者にとっては夢のような(?)治験ということになります。

この治験、我々は治験薬を提供するだけで、かかる費用も治験自体もNIH(国立健康衛生局)が主導している治験です。国家の科学研究費を使って薬物依存という病気の治験が行われるということも驚きですし、さらにそのスタディプロトコールで最初の1週間に麻薬であるモルヒネを投与するというのも何だか驚きです。日本人のカルチャーからすると、すごく違和感がありませんか。

私はアメリカで公衆衛生の大学院を卒業した後、カリフォルニアで貧困者をターゲットに無料でヘルスケアを提供するNPOで働いていた事があります。その時のプロジェクトの1つがHIV感染者、AIDS患者を減らすために、麻薬中毒者に無料で注射用のシリンジや注射針を配布したり、中毒者の間で使い回しする注射針の正しい消毒の仕方(?)を教育(?)するというものでした。「えーっ、それは、、、、ちょっと違うのでは?!?!」と驚いたものです。でも同時に‘AIDS患者を減らす、HIV感染者を減らす‘という目的のために手段を択ばないアメリカのスケールの大きさというか大胆さに感心したものでした。

「麻薬患者はどんなに言って聞かせても、今日、明日には麻薬を辞めない。でも清潔な注射針や正しい消毒法を教えれば、今日、明日のAIDS、HIV感染という2次病害は防げる」というのがその理念だったのです。麻薬中毒は、本人の意思や家族の協力だけではなかなか克服できない根が深い疾患です。お薬の助けで、麻薬中毒の地獄から抜け出せるのでしたら、それは大きな朗報だと思います。コロンビア大学での治験は当初の予定よりちょっと遅れましたが、もうすぐ完遂予定です。

それから、東京事務所にお問い合わせがたくさんあった、NBCのTV番組のことです。9月に放映されなかったので日本の株主の皆さんに、私はオオカミ少年!と言われているのでは、、とめげていました。が、とうとう、今日の夕方、チームの皆で編集されたビデオを視聴し最終のOKを出しました。色々あって(この言い訳は実際に放映されてからすることにしましょう、、)延び延びになっていましたが、FDAの弁護士も視聴してOK、我々からもOKが出たの、あとは放映を待つだけです。本当良かったです。とても良い編集で、出来るだけ早くHPにも掲載されるようにします。

松田和子