Dyspnea Score について
2回にわたり肺機能検査にまつわる話題でブログを書きましたが、今回はDyspnea Scoreについて説明します。
Dyspneaは直訳すると“呼吸困難”とか“息苦しさ”という意味です。どちらかと言うと普段はあまり使わない医学専門用語です。患者さんに実際に問診したりする場合にはDyspneaという言葉を使う事はほとんどありません。”Do you have difficulty of breathing?” =「息をするのが大変だったり、苦しいですか」と聞く事が多いです。
さて、このDyspnea Scoreはつまり、“呼吸困難スコア、息苦しさスコア”です。これは 最低スコアが0(息苦しさ全く無し)、最高スコアが10(今まで経験した中で最高に息苦しい)という0-10までの1点刻みのスコアで、患者さん自身が評価をする“主観的”な評価です。
このように患者さん自身が評価する“主観的な”評価項目としては他に、
“Pain= 痛み”とか “Anxiety =不安さ”
などがあります。これらは、たとえば、「疼痛」とか「不安症状を訴える病気(全般性不安症候群、パニック症候群))などの治療薬の治験評価に用いられます。
でも、このような”痛み“とか”不安さ“などという評価は個々の患者さんによって、“感じ方の閾値”が違う事や、それを客観的に標準化出来ない、という難点があります。
治験に参加すると、普段の治療よりもドクターや治験コーディネータの方々に手厚くケアされることが多いのは良く知られています。普段よりも丁寧に説明をしていただけたり、時間をかけてケアしてもらうと、どうしても、心理的に
“何だか良く解らないけど、先生に改めて聞かれると、このお薬はとっても効いているような気がするかも、、、”
という、いわゆる“プラセボ効果”が高い確率で起きる事も良く知られています。
普段、喘息急性発作で息苦しくてER(Emergency Room:救急治療室)を受診する患者さんは、まず吸入治療を受け、なかなか改善しなければ、吸入治療を繰り返し経過観察します。でも血液検査や心電図検査をしてもらうことは、ほとんどありません。頻回に自分の状態を確認してくれる治験コーディネーターの方もいませんし、ERでスピロメーターを使って肺機能検査をしてもらう事は決してないでしょう。
ですから、私はこのMN-221-CL-007治験でのDyspnea Scoreに関しては、「きっとプラセボ効果のせいで良い結果は出ないに違いない、、、」と、実は期待していませんでした。
しかし私の予想を裏切り、Dyspnea Scoreの改善という点では、たかだか170名弱のサンプル サイズで “統計学的に有意差がある結果”が出たのです。最初にデータを見たとき、「えーっ!このサンプル サイズで、、」と思った位です。
治験サイトのドクターの何人かに、「ダブル ブラインド スタディ(二重盲検治験)だけど、私には誰がMN-221で治療されたか判る!何故なら、患者さんが“I feel so good” (=あーっ 楽になった)と言うから」と言われた事がありました。そういう小さな事が、最終的にはDyspnea Scoreのデータとして表れたのだとしみじみ思いました。
次回のブログでは、「ところで、良く言われる“統計学的に有意差がある”って、どういう事?」という内容について、お話しようと思っています。
松田 和子