アメリカ神経学会総会@トロント ~2~
前回のブログで~数年前に定説だった事が正しいとは限らない~と書きましたが、何もこれは医学の分野に限ったことでは無いと思います。でも人の病気や健康に関る分野で今まで正しいと思われていた事が違う認識で捕らえられ、それにより診断法や治療方法に変化が生じるのであれば、患者さんの診断・治療に関る専門家は常に新しい知見にオープンに耳を傾け、必要な事を取り入れていくことが大切です。
今回のアメリカ神経学会総会では限られた時間に中で、多発性硬化症の治験についてのセッションを中心にポスターや口頭発表を回りましたが、特に印象に残る発表が2つありました。
1つはS11.001の ”Optimal Design and Analysis of Phase I/II Clinical Trials in MS
with Gadolinium Enhancing Lesion as the Endpoint” という題目です。この研究で検証しようとした事を間単に説明すると、多発性硬化症治療の治験においてエンドポイントとして頻繁に用いられてきた「Gd強調画像」について、今までの撮影頻度、およびそのデータ解析手法が果たして正しかったのか?最も望ましい撮影頻度や解析方法は本当はどれなのか?という事を問いかけるものでした。Gd強調画像の撮影頻度は2週間毎が良いのか、1ヶ月毎あるいは2ヶ月毎でもよいのか?そしてデータの解析に用いる手法は何が一番適しているのか?を改めて検証した研究発表でした。この発表を聞きながら、思い出したのがその2日前にお会いしたDr. Foxとの会話です。急性所見は平均3週間ほどで画像上での診断が難しくなるので、2週間毎の撮影でなければ差を明確に示せないというのです。KOL(キー・オピニオンリーダー)との会合でも同じ事を言われました。これからは、エンドポイントの設定やスタディデザインも変わってくるのだろうと推測されます。
今までの多発性硬化症の治療薬の治験でプライマリー・エンドポイントとしては選ばれる事のなかったBrain
Volume(脳体積=脳萎縮の程度を検証する)についても、2009年にMultiple Sclerosis という雑誌に発表された論文 “Proof of concept studies
for tissue-protective agents in multiple sclerosis” (2009;15; p 542-546) では神経保護作用を持つ薬の治験において最も望ましいプライマリー・エンドポイントとしてKOL達が選んだものはBrain Volumeだと明記されています。
もう一つアメリカ神経学会総会で興味深かったセッションはS11.002の ”Twice Weekly vs Daily
Glatiramer Acetate: Result of a Randomized, Rater-Blinded Prospective Clinical
Trial Clinical and MRI Study in RRMS” です。多発性硬化症治療薬のコパキサンは毎日行なう皮下注射治療なのですが、この少人数のパイロットスタディでは、週2回の皮下注射でも毎日の皮下注射治療と同じ効果があるというものでした。もし大人数のスタディでも同じ効果があると認められれば、週に2回注射に減らせる可能性があるのですから患者さんにとっても朗報ですし、更に医療費の削減にも繋がりますね。
松田和子