MN-166の新たな適応症
昨年末、正式にアヴィジェン社との合併が行われた事で、MN-166には新しい適応症での治験が加わりました。旧アヴィジェン社のホームページには英語で説明されていたので(現在もまだアクセス出来ます)すでにご存知の方も多いかも知れません。現在、我が社の英語版のホームページもアップデート準備中ですが、この新たな適応症・治験についてこの場を借りて簡単に説明したいと思います。
新たな治験として加わったのは、“Opioid withdraw” 麻薬鎮痛剤等の禁断症状(薬物依存症)の治療です。
現在この治験はNIH(米国衛生研究所)からの研究費助成を得て、米国ニューヨーク コロンビア大学で行われています。製薬企業の行う治験に公的機関の研究費が助成される事は珍しいことです。このような公的機関からの助成は、“社会的に非常に意義のある薬”や“開発を強く望まれる薬”の治験をスムーズに行う事をサポートする目的で与えられます。特にNIHのような非常に権威のある研究機関からの助成は、米国政府のこの治療薬に対する大きな期待が伺えます。
薬物に対する依存性がどういったメカニズムで起きるのか?という事は日本でも研究が進んでいます。中枢神経系のグリア細胞の重要な役割を果たす事がわかっています。(*参照 成田 年:「薬物依存時におけるシナプス可塑性とグリア細胞」日本薬理学雑誌、126(1)p43-p48 2005 中川貴之:「グリア細胞と薬物依存」『グリア細胞-その新しい展開』Clinical Neuroscience,
23, p165-p168 2005)
MN-166はグリア細胞の調節因子として、MIF(マクロファージ遊走因子)やTLR-4の活性を抑え、グリア細胞の前炎症ファクター活性を抑制すると考えられています。グリア細胞活性化の抑制を介して中枢神経系において神経保護の役割を果たすと考えられ、このメカニズムに基づき、アヴィジェン社はイブジラスト(旧AV411=MN-166) での薬物依存症の治療における特許を申請し、治験を始めていました。今回の両社の合併により、MN-166は多発性硬化症の治療薬としての開発のほか新たに、薬物依存治療薬としての開発という新たな一面が加わったのです。
昨年、日本で有名芸能人の違法薬物の使用・依存が明るみになり“薬物依存症”という病気に大きく関心を持たれるようになりました。違法薬物依存の場合は犯罪とも絡み、患者本人だけでなく、家族など周りの人々にも苦難な思いを強いる辛い病気です。依存性が強く形成されてしまった場合は周囲の方々の援助や本人の精神力だけでは立ち直ることの非常に困難な病気です。MN-166 の新たな開発プログラムが、この病気に苦しむ患者さんや、家族の方への大きな手助けになることを期待しています。
松田和子