2010年問題とエコファーマ
最近、“2010年問題”という言葉を耳にした方が多くいるのではないでしょうか。いわゆる“2010年問題”とは、日本の製薬業界において2010年前後に大型医薬品の特許が一斉に切れることにより、各医薬メーカーの収益に重大な影響をもたらすと懸念されている問題のことです。本来は特許が切れると、ジェネリックといわれる形で同じ有効成分を持つお薬が比較的廉価で手に入れられるようになるため、一見、患者さんにとっては有り難いことです。
「良いお薬が廉価で手に入り、医療費も抑制出来、良い事だらけなのにどうして懸念なのだろう?製薬業の人々は自分達の利益が減る事ばかり心配して“問題”と呼んでいるのだろうか?」と思われるかも知れませんが、問題は別のところにあるのです。
新薬の開発というのは、信じられないほどの時間、労力、費用を必要とします。国内外を問わず、多くの製薬会社が、今まで新薬の開発に力を注ぐことが出来たのは、売り上げの多いお薬からの収益を新薬の研究開発費に使う事が出来たからです。研究開発費が限られてしまうと、今後の新薬の開発自体が縮小されてしまいます。特に、患者さんの少ない難病の治療薬の開発は益々厳しくなる可能性が高いのです。研究開発が停滞すると、
新薬が出てこない⇒収益をあげる製品が無い⇒研究開発費に回す資金がない⇒新薬が出てこない
という負のスパイラルに陥ってしまいます。この2010年問題については、新潮新書の「医薬品クライシス―78兆円市場の激震 」(佐藤健太郎著)に詳しく書かれています。
このような現状で今注目されているのが「エコファーマ」です。
エコファーマとは既に承認されている医薬品から新しい医薬品の卵を発見する創薬手法のことです。私はこの言葉を九州大学薬理学の井上先生の論文(*参照)で知りました。(以下、論文の一部より抜粋、引用)
しかし,新規医薬品を開発するには巨額な開発費をかけても10数年の歳月が必要とされ,今現在、痛みに苦しんでいる患者には何の助けにもならない。新薬の開発に努力する一方で,開発までの間に患者救済の何らかの工夫が必要となる。その一つとして,国が既に承認した医薬品の中から,薬理学的基礎データを基にして新しい創薬シーズを探索しようと試みた。既承認医薬品には膨大な基礎資料があり,ヒトへの安全性の確保もはかれ,従って開発時間の短縮が図れると考えられる。このような,発症メカニズムに根ざした新薬候補を人類の資産である承認済み医薬品から見出す試みを「エコファーマ」として提唱したい。患者に対しては短期間で薬を提供できるし,製薬企業からすれば既存薬の新規適用拡大(リポジショニング)につながり,薬の寿命を長くするという効果をもたらす。また,適応外処方をしなければならない臨床医の精神的・法的な負担を取り除くという意味もある。
この手法、どこかで聞いたことがありませんか?
私達が開発しているMN-166がまさに、このエコファーマの手法ですよね。井上先生はこの論文の中で、イブジラスト(MN-166)についても言及してくださっています。
参照論文:ミクログリアと神経因性疼痛:エコファーマへの挑戦 福岡医誌99(12):239―245,2008)
https://qir.kyushu-u.ac.jp/dspace/bitstream/2324/13278/1/fam99-12_p239.pdf
松田和子