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治験の結果についての補足説明

2010/12/21

皆さん、こんにちは。

先週末はこの時期にまさかの30℃を超えた南カリフォルニア、でも今週末は2日間ずーっと大雨でした。雨の運転に弱いカリフォルニアの人にとってこんな大雨の中、ハイウエィの運転は冷や冷や物です。でも、大雨ごときで文句を言ってはいけません、砂漠の住人である私達には恵みの雨。それよりも、先週は他のアメリカ中西部や東海岸はスノーストーム(直訳すると雪嵐、正しい日本語は吹雪)で大変だったようです。ミネアポリスという街では、大きな野球スタジアムの屋根が積もった雪の重さで落下したのですって!

さて、先週はコロンビア大学で行われていた、薬物(ヘロイン)中毒患者さんの離脱症状における治験の結果についてのプレスリリースが出ました。でも今回のプレスリリース、そもそも“薬物中毒”という、あまり馴染みが無い(あっては困るのですが)疾患を対象にしている治験である事、最初の1週間はモルヒネだけを与えるプロトコルデザイン、途中で「オキシコドン」というまたもや麻薬系鎮痛剤を使い冷水に手を入れて痛みに耐える検査などしていることもあり、プレスリリースの発表内容が少し解りづらかった印象があるのですが、どうだったでしょうか?私自身が英語のプレスリリースの原案を最初に読んだ時、何だかすっきり頭に入ってこないというか、簡単には咀嚼出来なかったのです。それで、今日は補足説明という形で説明を加えたいと思います。

1. ヘロイン中毒について

ヘロイン中毒の患者さんは大抵最初の頃はヘロインの効果~それは一般的には“この上ない多幸感”、“凄ましいまでの快感”などと表現されるようですが~を得るためにヘロインを使用するのですが、乱用し続けていると次第に効果を感じることは減っていきます。そして、やがて、ヘロインが体から抜けた時に起こる恐ろしい禁断症状、離脱症状を避けるためだけに、ヘロインを欲しがるようになります。ですから、ヘロイン中毒の患者さんはヘロインなどの麻薬を使うことで、「本人にとっての普通に近い状態に戻る」、、という感じです。イメージとしてはアルコール中毒の人が、酒が切れると手が震えたり、汗を大量にかいたりするけれど、お酒が入ると落ち着く、、という感じに似ています。

2. モルヒネを1週間投与したプロトコルについて

モルヒネはヘロインと同じ仲間の麻薬系の鎮痛剤です。ヘロイン中毒の患者さんはそれぞれ、個々人でヘロインの使用量、使用頻度や使用歴などが異なります。患者さんの中毒のレベルによってヘロインの体内濃度も異なるでしょう。そういう事が原因で治験のデータ結果に差が出ては困るので、最初の1週間はヘロインの代わりに一定量のモルヒネを与え、治験参加者が暴露される麻薬の量を一定に保ったのです。

 3. SOWSについて

これは主観的に評価(患者さん自身が評価)する麻薬の離脱症状のスコアです。今回の治験で使われたのものでは、全部で13項目に渡って身体症状や気分などについての質問があり、患者さんが答えを0から4までの数字で評価し、スコアするものです。質問の例としては、「身体に痛みを感じる」「吐き気を催す」とか「身体が震える」「汗をかく」などがあります。全く感じなければ「0」ですし、とても強く感じるのであれば「4」を選ぶことになります。

 4. オキシコドンを使った痛み刺激の検査の意味

オキシコドンを使った冷水忍耐テストですが、これは一般的に鎮痛効果を確認するテストとして広く利用されている検査です。冷水(大体、氷を入れて水温を4℃に保ったもの)に手を入れてもらい、被験者が、時間的にどの位で痛みを感じ始めたか?さらに痛みを感じながらどの位の間我慢して手を入れていられるか?という事を計測します。また痛みの程度は、被験者自身にスケール0-10の間で評価してもらうのです。またこのテストの際には、心拍数、血圧などの生理的な変化も計測します。この痛みの冷水忍耐テストは新しい鎮痛剤が開発される時などに、従来使われている鎮痛剤と比べて、どの位痛みに対して効果があるか?などという風に用いられます。

 では何故、この検査を今回の治験で行ったかという点についてです。

 MN-166自体には急性の痛みを抑える効果はありません。でも、過去に行われた他の治験結果から、MN-166を麻薬系鎮痛剤と一緒に使用するとシナジー効果(相乗効果)により麻薬系鎮痛剤の効果を高めることが知られています。それで、この検査を今回の治験に組み込んだのは、同じような効果がヘロイン中毒の患者さんでも確認できるだろうか?という事で離脱(禁断)症状を評価するプライマリーエンドポイント(主要評価項目)以外に、セカンドリーエンドポイント(副次的評価項目)として、MN-166とオキシコドンを両方投与された患者群とプラセボとオキシコドンを投与された患者群とを比べて、痛みに対する効果もついでに調べちゃいましょう!と、ちょっと便乗した形でMN-166の麻薬系鎮痛剤へのシナジー効果を調べたのです。これは、MN-166のもう一つの適応症である神経性疼痛への効果評価にも少し関連してくる検査なのです。

 今回の治験結果についてまず何より大切な事は、ヘロイン中毒者を対象にした治験でもイブジラストが安全性に問題がなく、認容性が高かったことです。また、グリア細胞調節作用、マクロファージ遊走阻止因子阻害作用そしてPDE阻害作用を持つイブジラストが、薬物依存患者さんが依存症から抜け出すための離脱症状の治療薬になる可能性を初めて示した臨床治験という事でとても画期的な治験結果だと感じています。同じく米国国立薬物濫用研究所との連携で現在UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)にて行われているメタアンフェタミン中毒患者を対象とした治験にも期待が持てます。他の治験において既にイブジラストは100mg/日の量まで安全に投与出来る事が確認されています。今回の治験結果が用量依存性(80mg/日の高用量ほど良い結果が出た)事より、更に用量を増やして100mg/日の量を用いた場合、更に良い結果が出る可能性が考えられます。

 クリスマスから年末年始にかけては仕事がスローになりがちですが、ブログはきちんと書きますね。次回はMN-166の導出活動について、きちんとご説明しようと思います。

 松田 和子