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日本人に学んだWork Ethics

2010/08/17

現在進行中のMN-221の治験は全米の大きな病院の救急部で行われています。皆さん、「ER」というアメリカのテレビドラマを見た事がありますか?確か、日本でもケーブルチェンネルか何かで放映されていたと記憶しています。実際のER(Emergency Room救急医療室)は曜日や時間帯によっては比較的スローペースな時も無いわけではありませんが、基本的に都市部にある大きな病院のERというのは大抵いつも忙しいものです。比較的軽度な症状でもERを24時間営業の外来のように濫用する患者さんもいますし、交通事故などによる外傷、心筋梗塞、意識障害など一刻を争う患者さんが複数、救急車で搬送されることも度々ですのでERの現場は本当に気が抜けません。テレビドラマでも描かれているような、かなり緊迫した混沌とした状況で治験を実施するというのは実はとても大変なのです。

一般的に臨床治験は外来に通院される患者さんに治験の内容を説明し、理解していただき、治験に賛同して頂いた方々から参加患者さんを選んでいきます。治験に興味を持った患者さんは何度も納得のゆくまで質問をしたり、一度、家に帰ってゆっくり考えたり、ご自分でインターネットや図書館、あるいは知り合いの方などから情報を集めたりして、治験についての理解を深める時間的な余裕があります。外来通院の患者さんを対象にする治験の場合は治験に興味がある患者さんをあらかじめ特定出来るという利点もあります。

しかし、我々の行っているMN-221-007治験は、救急部に来院した呼吸状態の良くない患者さんを一刻も早く見つけ出し、喘息患者さんであることを確認し、患者さんへ治験内容を説明をし、参加にご協力頂くという過程を、患者さんが来院してから数時間以内に行う必要があるのです。この治験には普通の治験よりもより高い集中力と熱心さを必要とするのです。「ERはただでさえ忙しいのに、その合間に治験なんて無理だよー」というドクターにはとてもお願い出来ません。ですから、MN-221-007治験に参加しているERドクター達は皆、このMN-221の信者です。

「喘息のレスキュードラッグ(急性期の発作を助ける薬)の分野は過去30年手をつけられてなかったんだ!これがあれば、患者さんも助かるし、僕らも助かる!」「この薬があれば入院率を下げるだけでなくERの待ち時間や滞在時間を短縮出来るので病院も健康保険会社も喜ぶよ!」とMN-221のコンセプトを信じこの薬がマーケットに出て欲しい、と願うERドクター達が治験に参加してくれているのです。この2ヶ月、私達は改めて、全サイトを訪問し、治験に関わってくれているドクターや治験コーディネーター達に会ってきました。救急医療現場で忙しくバリバリ働いているドクター達から得られる生のフィードバックには本当に勇気付けられました。

中でも私がとても感銘し、日本人として誇りに思えたエピソードを皆さんにシェアしたいと思います。ニューヨークのブルックリンにある病院の救急部で治験に参加しているあるドクターはとりわけ熱心です。夜中自宅にいるところに、ERのナースから「喘息発作の患者さんが来院しています」という報告を受けると、まずは車に乗って病院に向うのだそうです。というのも彼は、病院から車で40分以上離れたところに住んでいるからです。運転の途中に、ナースから連絡が入り、「残念ながら、患者さんは肺機能検査の結果で治験に参加できない事が判明しました」となると、そこでUターンして自宅に戻るのだと。この話をERナースから聞いた時、本当にびっくりしました。

アメリカの医療現場はとても合理的で主治医制ではなくチーム全体で患者さんを診るという体制が徹底しています。これは医療の質のレベルを個々のドクターの好意に頼らずに一定に保つと言う意味では良く出来たシステムですし、ドクター達がオーバーワークにならないようにする役割もあります。自分の仕事時間が終わると、次の時間帯をカバーする同僚に自分の患者さんのことを申し送りし、その後は次の自分のシフトまで一切仕事のことを忘れることが出来るのです。仕事のオンとオフをはっきり区別する事が仕事の生産性を高めるという発想なのですが、、、ですから、シフトを終えて一度自宅に戻ったERドクターがわざわざ病院に戻ってくると言う事はアメリカでは普通有り得ません。

このドクターの話をERナースから聞いて驚いた私が謝辞を述べると彼は「僕もスパーマンではないからいつもいつもそう出来る訳ではないけど、、体力と状況が許す限り出来るだけERに戻るようにしているよ。」と。そして、「このWork Ethics(仕事に対する倫理観)は日本人に習ったんだ」と言ったのです。彼の父親が栄養学の教授だったそうで、父親の研究室にいつも日本から若い研究者が留学していたのだそうです。その日本人研究者達の仕事振りは本当に素晴らしいと父はいつも自慢にしていたのだそうです。自分が褒められた訳ではないのですが、日本人として、とても嬉しい言葉でした。

松田 和子