多発性硬化症(2)
皆さん、猛暑が続いておりますが、いかがお過ごしですか?地球温暖化の影響なのでしょうか、出張先でも地元LAでも今年の夏は一層暑さがこたえます。(それとも単に年でしょうか?)
さてMN166の続編です。
今年の10月に、国際多発性硬化症学会がヨーロッパで開催されます。この学会で、MN166のフェーズ2の臨床試験の結果を発表する栄誉に浴しました。それも、多発性硬化症と新薬、神経保護作用を有する新薬、というセッションでの演題として、です。
当初は、プライマリーエンドポイントを満たさなかったということから、我々の結果をあまり評価しない市場関係者が多かったのも事実ですが、専門家には MN166が、患者さんの脳萎縮を抑制できた事のインパクトが大きかったのでしょう。脳萎縮を抑制する薬として、俄然注目を集めている次第です。
実は、私自身も、多発性硬化症(以下MS)とは脱髄の病気とばかり思っていました。しかし過去5年ほどの研究から、MSの病態は脱髄だけではないことを学んだのです。神経細胞から伸びるコードを、“髄鞘”と呼ばれる構造がまるで“ちくわ”のように取り巻いていて、この髄鞘が消失したりダメージを受けることを脱髄と呼びます。MSでは脳のあちこちで脱髄が起きたり、治ったり、を繰り返す事が主な病態と考えられてきました。コードの部分にあたる軸索のダメージも病態の一部である事は知られてはいましたが、どちらかというと繰り返し起きる脱髄の結果、後から起きる現象であり、患者さんの病態にはあまり関係しているとは考えられてこなかったのです。
ところが5年ほど前からむしろこの軸索の傷害のほうが患者さんの症状に強く影響しているという考え方が強くなってきています。残念ながら軸索の傷害は現在のMRIでは描出されません。唯一、軸索のダメージをMRIで知る方法は、脳ボリュームを測る事です。傷害が進むと 軸索が消失して脳が萎縮してしまうからです。
MN166によって 脳萎縮が抑えられた事で、軸索のダメージを抑えているのではないかという点が国際学会の演題に選ばれた理由です。
MN166に神経保護作用があるらしいという事は日本のグループが基礎実験で確認していて既にいくつかの論文も発表されているのですよ!
まさに、日本発の薬を日本発の学術研究が後押しして、その成果を世界に発信しています。
MN166結果のプレスリリース以来、特にヨーロッパ患者さんから問い合わせのメールが届くようになりました。日本では別の適応で既に認可されているお薬と知ってか「日本に行って是非試してみたい。どうしたら良いか?」とまでいう患者さんまでいらして、患者さんやその家族の切実な想いが伝わってきます。
今の立場はCEOですが私の原点は臨床医。こういう現場の声に応える事が、私にとって“創薬”での究極のゴールであり喜びです。
岩城裕一